里山の夕闇に浮かぶ壮大な農村舞台で田舎の幸と村芝居にひたる
西塩子の回り舞台は、茨城県常陸大宮市西塩子地区に伝えられてきた、江戸時代後期、文政年間の道具も残る組立式の歌舞伎舞台です。舞台を組立てては、村の祭りに歌舞伎や人形浄瑠璃を行ってきましたが、戦後は行われなくなり、町が行なった調査をきっかけとして、平成9年、半世紀ぶりに復活しました。その後、地芝居の一座を結成、地元の小学生も歌舞伎に取り組み、原則として3年に一度の秋、舞台の組立と地芝居の公演を行なっています。秋風に吹かれ、地元産の美味を頬張りながら、野次ったり笑ったりほろりとしたり、舞台と一体となっての芝居見物は格別です。
自慢の第一は何といってもその舞台。舞台、回り舞台、花道の床板などの部材と、舞台背景や各種の幕などの道具のほかは、組立てごとに柱や束に使用する材木200本余と、屋根に用いる真竹300本余を伐り出して舞台の材料とし、1ヶ月以上をかけて客席の間口・奥行きとも20mほどの美しい舞台を組上げます。かつては、公演終了後、舞台に使用した材木等を売り払って祭礼の費用にあてていましたが、現在では材木は保持し、竹の伐り出しのみ行なって組立てています。9月半ばから始まる組立てには、大勢のボランティアも参加して、和気藹々と一緒に汗を流し、地域の人々との交流を深めています。
次の自慢は“ひとの輪"。「西塩子の回り舞台」を支えている保存会の会員は、西塩子地区の全世帯、わずか70戸ほどです。山間の少子高齢化が進む地域ですが、ふるさとへの思いから力を合わせて舞台を復活、地芝居の一座「西若座」も結成して、平成18年までに5回の舞台組立と公演を実施しました。その活動は高く評価され、第3回むらの伝統文化顕彰農林水産大臣賞、第8回ふるさとイベント大賞総務大臣表彰、第28回サントリー地域文化賞などをいただきました。しかし、小さな地域のみでの運営や維持はたいへん。そこで、西塩子地区民の熱意にほだされた大勢のボランティアが、組立てはもちろん、舞台道具の制作や衣裳作り、着付けなど、さまざまな場面で活躍し、舞台を応援してくれています。これでまた“ひとの輪"が広がってゆくのです。
忘れちゃならないのは地域の自然とむらの景色、そしてそこで生産されるおいしい農作物です。関東平野の端に位置するこの地域は、谷津田と里山が織りなす典型的な日本人のふるさと。雑木の茂るやさしい山並みには、ひとのくらしと里山の自然が溶け合っています。山からしみ出す谷水と粘土質の土に恵まれた西塩子は、むかしから有名なおいしい米どころ。生産量が少なく、ほとんどが地元で消費されてしまうのでなかなか手に入らない“まぼろしの米"です。里山のふところに抱かれた、なんにもない静かなたたずまいの西塩子を、いちどゆっくり散策してみませんか。
氏名・社名・団体名 | 西塩子の回り舞台保存会 |
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住所 | 〒319-2265 茨城県常陸大宮市中富町3135-6 (歴史民俗資料館 大宮館) |
電話番号 | 0295-52-1450 |
ファクス | 0295-52-5233 |
URL | http://mawari-butai.jpn.org |